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第8話 ゴスッ!!

last update Last Updated: 2025-05-17 11:05:14

「被害者発見!! 被害者発見です!!」

「意識はないようですが、無事です!!」

 その言葉を聞いてようやく安堵した。

 一つため息をついて、ようやく外に出ようと振り向こうとしたが足が動かない。そのうえ震えている。強がってはいたものの、俺はやっぱりビビっていた。

――ああぁ~!! びっくりしたさ!! 相手大人だし!! こっちは俺一人だし!! カレンいたけど幽霊だし!! それにアイツ鉄パイプとか持ち出してるしぃぃぃぃ~!!

 てなことを考えていたら、警察の方が後ろから支えてくれた。 付き添われる形で倉庫から出たのはおそらくその10分後くらいだったんじゃないかな。

 すでに規制が張られているその下をくぐり警察車両の集まっている方へと誘導される。ちょうど救急車からストレッチャーが出されて倉庫の方へ向かうところだった。これから車の中で事情聴取されるのだろう。

「あれ?」

 俺は場面に似合わない声を上げる。いや正確には上げたらしい。記憶にない。

 歩いた先の車の前に、ヘッドライトでよく顔が見えなかったが、腕を組み足を広げた(言うと怒るからあんまり言えないけど決して長くはない)見慣れたシルエットが見えたから。

「や、やぁ、とう……」

 ゴスッ!!

 ッっ!!

 その場にうずくまる俺。うん、殴られた。マジなヤツ。

「な、なにすんだよ!! 俺は子供だし情報提供者だぞ!! 功労者なんだぞ!!」

「はっはっはっは。何を言ってる。だからこの位ですんだんだぞ!! 父の愛だと思え!!」

 ゴスッ

――まさかの二発目きた~~!!

「ほらっ乗れ」

「わかったから押すなよ!!」

 無理矢理に後部へと押し込められると

「良くやったな……さすが俺の息子だ」

 っと、小さなほんとに小さな声で父さんは言ってくれた。

 これには俺もジンと来て「うん」と頷いた。

 それからその場で事情を聴かれたのだが、その間に

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